『九条の大罪』のおもちは、壬生憲剛が子どもの頃から大切にしていたパグです。京極清志に命を奪うよう強要された過去は、壬生が京極へ反逆するまで消えなかった、二人の因縁の原点でした。
おもちは原作漫画の何話・何巻に登場するのか、なぜ死亡したのか。Netflixシリーズでおもち役を務めた犬や、原作第16巻時点の壬生のその後まで、事実と考察を分けて解説します。
※この記事には、『九条の大罪』原作漫画の第27審以降およびNetflixシリーズに関するネタバレが含まれます。
九条の大罪のおもちは何者?壬生憲剛が愛したパグ
『九条の大罪』のおもちは、半グレ集団を率いる壬生憲剛の愛犬だったパグです。
物語の現在ではすでに亡くなっていますが、壬生の身体に刻まれたタトゥーや回想、会話を通して、その存在が繰り返し描かれます。
壬生は自動車整備会社を経営しながら、裏社会で生きてきた人物です。
必要と判断すれば暴力を使い、人を切り捨てる冷酷さも持っています。そんな壬生が、名前と姿を身体へ残すほど深く愛していたのがおもちでした。
ただし、おもちをかわいがっていたからといって、壬生が善人になるわけではありません。
誰かを心から愛せることと、ほかの誰かを傷つけないことは別の問題です。
愛情と加害性が一人の人間の中に同居している。
おもちは壬生を美化するためではなく、善悪の二文字では整理できない彼の内面を見せる存在だと、私は感じました。
おもちは原作漫画の何話・何巻に登場する?
おもちの存在は、初めから詳しく説明されるわけではありません。
初出の手がかりは第8審、名前が分かるのは第9審、死亡の経緯が明かされるのは第27審です。第36審でも壬生の記憶として語られます。
原作漫画の主な登場話と収録巻は、次のとおりです。
登場話 収録巻 主な描写
第8審「弱者の一分⑦」 第1巻 壬生の身体に犬と「RICE CAKE」のタトゥーが描かれる
第9審 第2巻 壬生が以前飼っていた犬の名前がおもちだと分かる
第27審「強者の道理②」 第3巻 生前のおもちと、京極が壬生へ突きつけた命令が描かれる
第36審「消費の産物⑨」 第4巻 壬生がおもちの思い出と京極への感情を語る
第1巻には第1審から第8審、第2巻には第9審から第18審、第3巻には第19審から第27審が収録されています。第36審は第4巻の最終話です。
第8審でおもちのタトゥーが初めて描かれる
第8審では、壬生の身体に犬の姿と「everlasting love rice cake」という文字が刻まれていることが確認できます。
「rice cake」は、日本語の「餅」を意味する英語です。
この段階では犬の名前も過去も説明されません。しかし、壬生が一匹の犬を忘れられずにいることは、言葉より先にタトゥーから伝わってきます。
タトゥーは、時間がたてば自然に消えるものではありません。
壬生は、おもちを失った痛みまで身体の一部として抱えて生きることを選んだのでしょう。
第9審で愛犬の名前がおもちだと判明する
第9審では、金本が飼っていた犬・ブラックサンダーを九条間人が引き取る流れの中で、壬生も以前犬を飼っていたことが語られます。
ここで愛犬の名前が「おもち」だったと分かります。
強面で威圧感のある壬生と、丸く柔らかな響きの「おもち」。その意外な組み合わせによって、壬生にも鎧を脱いで過ごせる時間があったことが見えてきます。
壬生はブラックサンダーを自分で引き取ろうとはしません。
作中では理由まで断定されていないものの、新しい犬で喪失を埋めるのではなく、おもちはおもちとして残しておきたいという線引きにも感じられました。
第27審でおもちの死亡理由が明かされる
生きていたおもちと、壬生が背負うことになった過去が明確になるのは、第3巻収録の第27審「強者の道理②」です。
壬生は、伏見組が管理する賭場を荒らして金を奪おうとしたことで、京極清志に捕らえられました。
手足を拘束された壬生の前へ、京極は子どもの頃から飼っていたおもちを連れてこさせます。
そして、自分が生きたければ、おもちの命を自分の手で奪うよう迫りました。
壬生には、拒否すれば殺されるという状況しか残されていません。
第27審では、壬生が涙を流しながら金属バットを手にする姿と、その後に京極がおもちを殺したことを前提として言葉を向ける場面が描かれています。

この場面で京極が壊そうとしたのは、おもちの命だけではありません。
壬生が誰かを大切に思う心と、自分を人間につなぎ留めていた最後の逃げ場です。
しかも、直接手を下す役目を壬生自身へ負わせました。
壬生が京極だけを憎んで終われないよう、自分も加害者だったという罪悪感を残す。そこに京極の支配の恐ろしさがあります。
第36審では壬生がおもちの思い出を語る
第4巻収録の第36審「消費の産物⑨」では、壬生とおもち、そして京極への復讐につながる感情が再び描かれます。
普段の壬生は、自分の痛みを長々と説明する人物ではありません。
弱みを見せれば利用される世界にいるため、感情を隠すことも生き残る技術になっています。
それでも、おもちの記憶だけは閉じ込め切れません。
身体のタトゥーだけでなく、仲間とのLINEグループにも「おもち」という名前を使うなど、壬生の日常には愛犬の痕跡が残されています。
忘れられないというより、忘れないために残しているのでしょう。
京極に命を奪われても、一緒に過ごした時間や名前までは渡さない。壬生のタトゥーからは、追悼とともに、そんな静かな抵抗も感じられます。
おもちはなぜ死亡した?京極が壬生へ命じた理由
おもちが死亡した直接の理由は、京極が壬生を服従させるため、壬生自身に愛犬の命を奪わせたからです。
壬生は京極の縄張りである賭場を荒らし、伏見組の秩序を破りました。
京極は壬生をその場で処分せず、支配下へ置く道を選びます。その忠誠の証しとして差し出させたものが、壬生にとって最も大切なおもちでした。
京極は壬生から心の逃げ場を奪った
壬生の周囲にある人間関係は、多くが金や暴力、利害によって成り立っています。
力があるから従う者もいれば、恐ろしいから逆らわない者もいる。状況が変われば、昨日の仲間が明日の敵になりかねません。
しかし、おもちにとって壬生は、半グレのリーダーでも会社経営者でもなかったはずです。
怖い顔をしていても、社会で何をしていても、一緒に暮らす大切な飼い主でした。
壬生がおもちの前でどのように過ごしていたかは、細部まで描かれていません。
それでも、子どもの頃からともに過ごし、姿を身体へ刻んだ事実を考えると、おもちは壬生が力を誇示しなくても受け入れてもらえる「帰る場所」だったと考えられます。
京極は、その場所を壊しただけではありません。
壬生自身の手で壊させることで、どこへ逃げても過去がついてくる状態を作りました。
壬生が京極の命令でおもちを殺したあと、京極は壬生が自分だけを恨んで苦しみを処理できないよう、罪を背負わせる意図を示しています。
ここには、暴力よりも深い心理的な支配があります。
傷はいつか塞がっても、自分の手で愛する存在を奪った記憶は消えません。京極は壬生の身体ではなく、その後の人生を支配しようとしたのです。
壬生は京極へ復讐した?第16巻までのその後
壬生はおもちを失ったあと、表面上は京極へ従います。
しかし原作の後続展開では、壬生が京極を裏切るかもしれないという予兆だけで終わりません。
壬生は実際に京極をはめる側へ回り、その後は菅原とともに海外へ逃亡しています。
第8巻から第10巻で壬生と京極の関係が決裂する
壬生と京極の関係が大きく動くのは、第8巻から第10巻にかけて描かれる「至高の検事」編です。
壬生は犬飼勇人の海外逃亡を手引きする一方、最終的には犬飼を殺害します。
京極からは犬飼を生きたまま連れてくるよう命じられていましたが、壬生はその指示に従いませんでした。
さらに第82審では、壬生が京極につながる武器を持って警察へ出頭します。
壬生の供述によって九条も犯人隠避の疑いで逮捕され、京極は武器に関する事件で追い詰められていきました。
小学館による第8巻の紹介でも、伏見組の京極と半グレの壬生による抗争の激化が予告されています。
第9巻の公式紹介では、息子を失った京極の犯人捜しと、壬生が生き残るために動く展開が示されました。
壬生の行動すべてを、おもちのための復讐だったと断定することはできません。
自分が生き延びるため、伏見組の支配から抜けるため、九条を守るためなど、複数の思惑が重なっています。
それでも、壬生が京極へ心から服従していなかったことは明らかです。
おもちを失った日に押しつけられた忠誠は、長い時間を経て、京極の支配を壊す反逆へ変わっていきました。
第15巻・第16巻ではバンコクで逃亡生活を続ける
壬生は京極をはめたあと、日本を離れます。
小学館系電子書店などに掲載された第15巻の公式あらすじでは、壬生が半グレの菅原とともにバンコクで行動し、出雲から捜されていることが明記されています。
第16巻でも壬生たちのタイでの逃亡生活は続いており、おもちの過去を塗り替える新たな事実は描かれていません。
つまり、第16巻時点でも、おもちの死亡経緯や壬生との関係についての基本情報は、第27審と第36審で示された内容から変わっていないと整理できます。
京極を出し抜いたからといって、壬生が自由になったわけではありません。
日本で築いた生活を捨て、海外で追われる側になりました。京極を追い詰めても、おもちは戻らず、自分の手で命を奪った記憶も消えません。
私はこの展開を、単純な敵討ちの成功とは受け取りにくく感じます。
壬生は京極の命令から逃れようとして国境を越えました。しかし、身体に刻まれたおもちの姿まで置いていくことはできない。
逃亡先まで持ち運ばれる記憶こそが、京極の支配が残した最も重い傷なのでしょう。
Netflix版のおもち役はパグの「ごんすけ」
Netflixシリーズ『九条の大罪』でおもち役を務めたのは、ペットモデルとして活動するパグの「ごんすけ」です。
Netflixシリーズは2026年4月2日から全10話を一挙配信。
柳楽優弥さんが九条間人を演じ、松村北斗さん、池田エライザさん、町田啓太さん、音尾琢真さん、ムロツヨシさんらが出演しています。Netflixは2026年1月25日に配信日と主要キャストを公式発表しました。
動物プロダクション「エムドッグス」は、2026年3月29日の出演情報で、パグのごんすけがおもち役を務めたことを公表しています。

エムドッグスの撮影レポートによると、本番中に声で指示を出せない場面では、ごんすけがトレーナーの手の動きを見て待つなど、音を使わない合図にも対応したとされています。
おもちの役に必要なのは、派手な芸ではありません。
壬生のそばに座り、まっすぐ見上げ、飼い主を疑わずに待つこと。その静かな信頼が伝わるほど、後に起きる出来事の痛みは大きくなります。
人間の俳優なら、台詞で二人の関係を説明できます。
けれど犬は、言葉を話しません。
何も疑わず壬生を見るごんすけの姿があるからこそ、おもちが壬生にとってどれほど無防備で大切な存在だったのかが、説明以上の重さで伝わってきました。
おもちが物語で担う意味を考察
おもちは、重い物語の中へかわいらしさを加えるだけのキャラクターではありません。
壬生に残された人間らしさと、京極が用いた支配の残酷さ、さらに『九条の大罪』が描く「罪」の複雑さをつなぐ存在です。
おもちは壬生を許すための免罪符ではない
壬生がおもちを愛していたと知ると、彼を感情のない悪人として見ることは難しくなります。
しかし、その愛情によって壬生が行ってきた犯罪や加害が帳消しになるわけではありません。
現実の人間も、一つの顔だけではできていません。
家族には優しくても、外では誰かを追い詰める人がいる。動物へ愛情を注ぎながら、人間には残酷な態度を取る人もいます。
真鍋昌平さんの作品は、人を善人か悪人かという箱へ簡単に入れさせてくれません。
壬生には、おもちを心から愛する感情がある。
同時に、人を傷つけてきた責任もある。
おもちの存在は壬生を善人へ変えるのではなく、愛する心を持ちながら罪を犯す、矛盾した一人の人間として描き出しているのです。
タトゥーは追悼であり、京極への抵抗でもある
壬生がおもちの姿を身体へ刻んだ理由は、作中ですべて言葉にされているわけではありません。
ここからは私の解釈ですが、あのタトゥーには追悼だけでなく、京極への抵抗も込められているように見えます。
京極は、おもちを壬生自身に殺させることで、愛していた記憶まで罪悪感へ塗り替えようとしました。
それに対して壬生は、おもちの名前と姿を自分の身体へ残しています。
命を奪うことはできても、愛していた事実までは消させない。
おもちとの時間を、京極に服従した日の記憶だけで終わらせない。
タトゥーは壬生を責め続ける印であると同時に、京極にも奪えなかった愛情の証しなのでしょう。
『闇金ウシジマくん』のウサギとの共通点
壬生とおもちの関係から、『闇金ウシジマくん』の丑嶋馨とウサギを思い出した読者もいるのではないでしょうか。
どちらも真鍋昌平さんの作品で、裏社会に生きる恐ろしい男が、小さな動物へ深い愛情を注いでいます。
丑嶋も壬生も、人間関係では損得や裏切りを警戒し続ける人物です。
一方、動物は金や肩書を求めず、社会的な立場によって態度を変えません。
動物の前にいるときだけ、二人は誰かを支配する側でも、誰かに警戒される側でもない、一人の飼い主へ戻れます。
ただし、動物を愛する姿は、彼らの残酷さを薄めるためだけに置かれているのではないでしょう。
愛される温度を知っている人間が、なぜ他人の大切なものを奪えるのか。
その矛盾を際立たせるからこそ、動物との場面が作品全体へ深い余韻を残します。
おもちは、壬生の中に残った「まだ壊れていない部分」です。
同時に、その部分を理解していた京極が、最も痛む方法で利用したことを示す存在でもあります。
よくある質問
九条の大罪のおもちは誰の犬ですか?
半グレ集団を率いる壬生憲剛の愛犬です。犬種はパグで、壬生が子どもの頃から大切にしていました。
おもちはなぜ死亡したのですか?
京極清志が壬生を服従させるため、壬生自身におもちの命を奪うよう強要したからです。
おもちは漫画の何話に登場しますか?
初出の手がかりは第8審、名前の判明は第9審、死亡経緯が描かれるのは第27審です。
壬生は京極へ復讐したのですか?
壬生は京極につながる武器を持って出頭し、京極をはめる側へ回りました。その後は海外へ逃亡しています。
Netflix版のおもち役はどの犬ですか?
動物プロダクション「エムドッグス」に所属する、ペットモデルのパグ「ごんすけ」です。
まとめ
『九条の大罪』のおもちは、壬生憲剛が子どもの頃から愛していたパグです。
第8審でタトゥーが描かれ、第9審で名前が判明。第27審「強者の道理②」で、京極が壬生へおもちの命を奪うよう強要した過去が明かされます。
この出来事は、壬生と京極の因縁の原点になりました。
壬生は後に京極をはめる側へ回り、第15巻・第16巻では菅原とともにバンコクで逃亡生活を続けています。
Netflixシリーズでおもちを演じたのは、ペットモデルのパグ「ごんすけ」です。
おもちは壬生を善人に見せるための免罪符ではありません。
愛する心と加害性が、一人の人間の中で同時に存在する。その矛盾を隠さず、理解することと許すことの違いを読者へ問いかけています。
壬生の身体に残るおもちの姿は、消えない後悔であり、追悼であり、京極にも奪えなかった愛情の証しです。
小さなパグの面影が、壬生の人生を遠いバンコクまで追いかけていく。
その静かな重さこそ、おもちが『九条の大罪』という物語へ残した最大の存在感なのだと思います。



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